電極・皮膚間の分極の影響について


人体皮膚に電極を当てて通電測定を行う場合、電極と皮膚間の分極現象が測定誤差となる惧れがあります。
このため、脳波や心電測定では、分極現象を極力少なくするため、電極部材に塩化銀を使ったり無分極ペーストを使ったりするようです。
当会のA-AMI・E-AMI測定装置では、そういう特殊な電極を使っていません。
関電極は、真鍮に金メッキを施しゲルシートを貼りつけるだけ、不関電極は、ステンレスにマッサージ用のゲル剤を塗るだけです。
しかし、実験と考察の結果、それで問題がないと判断しました。

≪実験の方法≫


・測定時と同様に、不関電極にゲル剤を塗って手首に固定する。
・関電極にゲルシートを貼りつけ、皮膚の上の一点(*1)に当てる。
・その状態で、デジタルテスター(*2)で電圧測定すると、電極の当て方により変化が大きいが、75mV程度であった。

・次に、分極電圧を大きくして実験条件を悪くするため、不関電極に食塩水を塗って再度固定する。
・その状態で電圧測定すると、これも変化が大きいが、例えば150mV程度であった。


*1:井穴に限定しなかったが、どちらでも大差なかった。
*2:アナログテスターは内部抵抗が小さく、微小電流では電圧降下により正確な電圧が測定できないため。
・次に、上記2種類の電極間に100Ωの抵抗(*3)負荷をかけて、電圧測定する。
 すると、デジタルテスターの表示が0mV(1mV以下は表示されないため)になりました。



*3:AMI測定は、人体皮膚に100Ωの抵抗を介して3Vの直流電圧をかけ、100Ωの両端の電圧を測定するという仕様である。
このときの等価回路は左図のようになります。
皮膚(表皮・真皮)の抵抗Rp>>100Ωのため、Rpで電圧降下を起こして、分極による起電力Epが測定できないほど低下するのです。
左図は、A-AMI・E-AMI測定装置で、皮膚に3Vパルスを印加中の回路図です。

オペアンプには、+側入力に3Vのパルスが入力されます。パルス幅は、約1.5ms(*4)です。
オペアンプは、この間出力を3Vに維持します。
この3V期間、人体と電極の分極部には、起電力方向かその逆方向に電流が流れるので、いわば“強制充電”されて、起電力Epが変化すると思われます。
そして、起電力Epにより、100Ωの抵抗に電流iが流れます。

実際の読取装置は、この100Ω両端の電圧を読み取って電流値に換算して処理します。
因みに、実際のBP測定値は、1000〜4000μA(1〜4mA)程度なので、100Ω両端の電圧値に換算すると、100〜400mVです。

冒頭の図では、無負荷時は150mVでしたが、100Ω負荷で0Vになりました。
実際の測定時には、100Ω負荷でも100〜400mVという大きい電圧が発生しています。
目的の測定電圧に対して、分極電圧は無視できるほど小さいのです。

*4:本家AMI装置では、当初2ms、最近は250μsに設定しているようです。
 E-AMI読取装置内のPICマイコンプログラムで、250μsの信号を発生させるのは少々面倒なので、とりあえず約1.5msにしています。
上記1.5msが経過して3Vパルスが終了すると、オペアンプ+側入力は0Vになり、出力を0Vに維持します。
すると今度は、分極部の起電力Epにより、100Ωの抵抗には、上図とは逆方向に電流iが流れます。
つまり、“充電”された起電力Epが放電されることになります。
左図は、測定回路が読み取っている100Ωの両端の電圧です。
説明書では、普通3Vパルス立ち上がり時の+電圧(電流)波形しか表記されませんが、実際は3Vパルス立下り時の-電圧も出ています。
オシロスコープで見ると、こんな波形になっています。

以上の分極現象をまとめると、次のようになります。
・人体に付けた電極には、無負荷状態で150mV程度の起電力があるが、実測時には100Ω負荷がかかるので、無視できる。
・測定中、3Vパルスにより分極部をいくらか充電することになるが、その充電起電力も小さいと思われ、さらに3Vパルス立下り時点で、放電している。このため、各井穴を1つ1つ測定する際、分極起電力がだんだん大きくなることもない。
・電極部材に塩化銀や無分極ペーストを使うような特別な配慮をしなくても、測定精度を低下させることはない。


2016.04.18 ニッケルメッキ→金メッキ修正